父と娘の日記

或る70歳台父と40歳台娘の日々ー共通の趣味は、読書、音楽鑑賞(主にクラッシック)、登山、旅行等。

「ユマニチュード入門 」– 2014/6/9 本田 美和子 (著), ロゼット マレスコッティ (著), イヴ ジネスト (著)

お題「我が家の本棚」

お題「わたしの仕事場」

 

 「ユマニチュード入門 」– 2014/6/9 本田 美和子 (著), ロゼット マレスコッティ (著), イヴ ジネスト (著)

f:id:Tulip01:20200923204244j:plain

 

ユマニチュードとは「人間らしくあること、人間らしさを取り戻すこと」という意味。

「病気で一人、ベッドにいる。痛みと汚れで惨めな思いをしていると、誰かがドアをノックして私の返事を待った。一人の男が入ってきた。私の目をじっと見つめ、側に座り、静かな温かい声でこう話した。『私はあなたをケアするために来ました。私は専門家です』」

 

 ケアに関わる多くの人が「そんなことはやっている」と言うらしい。

 

しかし例えば「見る」だが、フランスで行った調査では、認知症で寝たきりの患者にアイコンタクトと言える0・5秒以上の視線の投げかけをしている医師や看護師は1人もいなかった、という。

 

「目を合わせる」という人間として普通のコミュニケーションをするだけで、寝たきりで反応がなかった人が、脳にスイッチが入ったように覚醒し、言葉を発するという結果につながる。ジネスト氏は、反応がないといわれていた人が、実は動ける事例を数多く体験した。

 

 ユマニチュードの広がりによりフランスでは高齢者施設で「革命が起きている」という。高齢化が急速に進む日本で、ユマニチュードはフランスの次に関心が高く、盛んに研究されている。ユマニチュードが重要だと考えていることは、人とのコミュニケーションでは普遍的なもの。ジネスト氏は、日本の「引きこもり」の若者の援助にも役立てるのでは、と語っている。ユマニチュードは日本でも革命を起こすかもしれない。

(ジャーナリスト 舟越 美夏)(KyodoWeekly3月9日号から転載)

 

 

 【はじめに】

人口の高齢化は、日本でも、世界でも、急速に進んでいます。

病院においても高齢の患者さんの占める割合が年々高くなってきています。 
病院は“病気を治す場所"として、体調を崩した方が次々に訪れます。
しかし、患者さんが脆弱な高齢者である場合、疾患だけを治していても、その方の健康を取り戻すことは難しくなっている。

たとえば、肺炎で10日間入院しているあいだに歩けなくなってしまったり、自分で食事がとれなくなってしまった人。

認知の機能が低下して自分がどこにいるのかわからず、入院中であることを理解できない人。治療の意味がよくわからずに点滴を自分で抜いてしまい治療の継続が困難な人……。

 

そして、このような人々の多くは、入院の直接の原因となった疾患は治っても、自宅での生活に戻ることができなくなる場合が少なくありません。


そもそも、わたしたちが学んできた医学は、治療の意味が理解でき、検査や治療に協力してもらえる人を対象とすることを前提にしています。


そんなとき、高齢者とりわけ認知症の人にも有効なケアがフランスに存在し、ユマニチュードというそのケアを実際に経験するために、2011年の秋にわたしはフランスを訪れました。

そこで学んだケアの技法は、非常に具体的な技術を原則にのっとって実践するものであり、わたしはこの技法は日本でも十分に利用できる、と確信をもちました。
***

ユマニチュード(Humanitude)はイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法です。

この技法は「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立っています。

認知症の方や高齢者のみならず、ケアを必要とするすべての人に使える、たいへん汎用性の高いものです。
体育学の教師だった2人は、1979年に医療施設で働くスタッフの腰痛予防対策の教育と患者のケアへの支援を要請され、医療および介護の分野に足を踏み入れました。

その後35年間、ケア実施が困難だと施設の職員に評される人々を対象にケアを行ってきました。
彼らは体育学の専門家として「生きている者は動く。

動くものは生きる」という文化と思想をもって、病院や施設で寝たきりの人や障害のある人たちへのケアの改革に取り組み、「人間は死ぬまで立って生きることができる」ことを提唱。
その経験の中から生まれたケアの技法がユマニチュード。

現在、ユマニチュードの普及活動を行うジネスト‐マレスコッティ研究所はフランス国内に11の支部をもち、ドイツ、ベルギー、スイス、カナダなどに海外拠点があります。また2014年には、ヨーロッパ最古の大学のひとつであるポルトガルコインブラ大学看護学部の正式カリキュラムにユマニチュードは採用されました。


「ユマニチュード」という言葉は、フランス領マルティニーク島出身の詩人であり政治家であったエメ・セゼールが1940年代に提唱した、植民地に住む黒人が自らの“黒人らしさ"を取り戻そうと開始した活動「ネグリチュード(Négritude)」にその起源をもちます。

 

その後1980年にスイス人作家のフレディ・クロプフェンシュタインが思索に関するエッセイと詩の中で、“人間らしくある"状況を、「ネグリチュード」を踏まえて「ユマニチュード」と命名しました。


さまざまな機能が低下して他者に依存しなければならない状況になったとしても、最期の日まで尊厳をもって暮らし、その生涯を通じて“人間らしい"存在であり続けることを支えるために、ケアを行う人々がケアの対象者に「あなたのことを、わたしは大切に思っています」というメッセージを常に発信する。

―つまりその人の“人間らしさ"を尊重し続ける状況こそがユマニチュードの状態であると、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティは1995年に定義。

これが哲学としてのユマニチュードの誕生。

 

***


この本は、このケアの創始者であるイヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティと、この2人から直接指導を受けた看護師との共同作業を通じて生まれた。

そのケア介入の効果がときに劇的であることから、「魔法のような」と呼ばれることもありますが、ユマニチュードは決して“魔法"などではなく、誰もが学ぶことができ、実践することができる、具体的な技術です。

この本では、その入門編として、ユマニチュードの基礎となる考え方と技術を紹介しています。 

2014年4月  国立病院機構東京医療センター  本田美和子

 

 

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

ジネスト,イヴ
ジネスト‐マレスコッティ研究所長。トゥールーズ大学卒業。体育学の教師で、1979年にフランス文部省から病院職員教育担当者として派遣され、病院職員の腰痛対策に取り組んだことを契機に、看護・介護の分野にかかわることとなった

 

マレスコッティ,ロゼット
ジネスト‐マレスコッティ研究所副所長/SASユマニチュード代表。リモージュ大学卒業。体育学の教師で、1979年にフランス文部省から病院職員教育担当者として派遣され、病院職員の腰痛対策に取り組んだことを契機に、看護・介護の分野にかかわることとなった

 

本田/美和子
国立病院機構東京医療センター総合内科医長/医療経営情報・高齢者ケア研究室長。1993年筑波大学医学専門学群卒業。内科医。国立東京第二病院にて初期研修後、亀田総合病院等を経て米国トマス・ジェファソン大学内科、コーネル大学老年医学科でトレーニングを受ける。その後、国立国際医療研究センターエイズ治療研究センターを経て2011年より現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

 

 

ユマニチュードは介護を必要とするすべての人へ向けたケアですが、とくに認知症を持つ方に有効とされており、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つがケアの柱。

見つめ、語りかけ、触れて尊い存在であることを伝える。

ユマニチュード・メソッドとは、ケアを通じて愛情を伝える実践的技術。
「技術なのです。学んで身につけたら、それは職業人として一つの動作になります」
二人で行う場合には役割を分担し、一人が「見る」「話す」ことで注意をひき、もう一人が「触れる」ケアに徹する。

【見る】 相手の「まなざしを捉える」ことから始まる。目線の高さを同じにして、正面からゆっくりと相手を見つめる。
「お母さんが赤ちゃんに話しかけるのと同じように、相手が私の息づかいを感じるくらいまで近づきます」
「相手を見ない」ということは「あなたは存在しない」というメッセージを発していることに他ならない。ユマニチュードでは相手を「見る」ためには0・5秒以上のアイコンタクトが必要。
「目が合うと、前頭葉が情報を直接受け取り、扁桃核のネガティブな反応を抑えます」
その間、黒衣役が清拭などのケアを黙々と進めていく。

【話す】 話しかけるときの声のトーンは「優しく、歌うように、穏やかに」。相手の反応が得られない場合には、黒衣役が何をしているのか「ケアの実況中継と予告」を行なうことで、不安を感じることのないよう、語りかけを絶やさぬよう努める。反応がないからといって話しかけないということは、「見ない」と同様、相手が「存在しない」というメッセージを発していることになる。

【触れる】 ケアの途中で「右手を挙げてください」など、本人に協力を仰ぐことで関節や筋肉を動かし、脳に刺激を与える。ただし、サポートが必要な場合の「触れる」という行為には慎重さが求められる。
「親指をかけて鷲づかみにしたり、指先だけで触れると、認知症の人には『攻撃』のメッセージが伝わってしまいます」広く、柔らかく、ゆっくり、撫でるように、包み込むように触れることで、「愛情」を伝える。また、いきなり、プライベートゾーンである手や顔、陰部のそばに手を置かない。

【立つ】 ケアを受ける人が40秒間立っていられるなら、立位を含んだケアが可能。清拭、着替え、歯みがき、洗顔を合計すると、一日20分のリハビリ時間が確保できる。ただし、立位介助の際は、からだを持ち上げて足の裏にかかる体重を減らさないこと。大脳に誤った知覚情報が届き、筋肉への力の入れ方、関節の動かし方がわからなくなるためだ。同様に背中を支えることも避ける。

 

出会いから再会の約束まで5つの段階を踏んで完結

ユマニチュードでは、ケアする人の存在に気づいてもらい、「この人となら良い時間を過ごせる」と感じてもらえるよう、すべてのケアを次の手順で行なう。

Step1 「出会いの準備」 ドア(大部屋の場合は壁)を3回ノックし、3秒待つことを2度繰り返し、反応がなければ1回ノックしてから「失礼します」と声をかけて部屋に入る。近づき、ベッドボードを1回ノックする。大切なのは「自分が来たことを告げて、相手の反応を待つ」こと。

Step2 「ケアの準備」 いきなりケアの内容を伝えるのではなく、「○○です。お話をしに来ました。ご一緒してよろしいですか?」など、「あなたに会いに来た」というメッセージを伝える。3分以内に同意が得られなければ、出直す。

Step3 「知覚の連結」 「見る」「話す」「触れる」ことで「あなたが大切」だということを伝える。2つ以上の感覚から心地よい情報を伝える「包括性」が大切。このとき、五感が受け取る情報を矛盾させないこと。

Step4 「感情の固定」 「シャワーは気持ちよかったですね」など良い時間をともに過ごしたことを振り返り、ポジティブな感情記憶を残す。

Step5 「再会の約束」 その場を離れるときには、「明日また来ますね」など、優しくしてくれた人がまた会いに来てくれるという喜びや期待の感情を記憶に残す。

リクルートドクターズキャリア」ユマニチュードの哲学とは より

 

ユマニチュードとは「人間らしくあること、人間らしさを取り戻すこと」という意味。

「病気で一人、ベッドにいる。痛みと汚れで惨めな思いをしていると、誰かがドアをノックして私の返事を待った。一人の男が入ってきた。私の目をじっと見つめ、側に座り、静かな温かい声でこう話した。『私はあなたをケアするために来ました。私は専門家です』」

 ケアに関わる多くの人が「そんなことはやっている」と言うらしい。

しかし例えば「見る」だが、フランスで行った調査では、認知症で寝たきりの患者にアイコンタクトと言える0・5秒以上の視線の投げかけをしている医師や看護師は1人もいなかった、という。

「目を合わせる」という人間として普通のコミュニケーションをするだけで、寝たきりで反応がなかった人が、脳にスイッチが入ったように覚醒し、言葉を発するという結果につながる。ジネスト氏は、反応がないといわれていた人が、実は動ける事例を数多く体験した。

 「女性と目が合う。浮かんできたのは『生きている』という言葉。アイコンタクトのパワーを久しぶりに実感する」。回復するのを見て感動しケアをする方も達成感を覚え、互いに笑顔が増える。より「人らしい」ケアを可能にするのがユマニチュードの技術といえるかもしれない、と大島氏は言う。

 ユマニチュードの広がりによりフランスでは高齢者施設で「革命が起きている」という。高齢化が急速に進む日本で、ユマニチュードはフランスの次に関心が高く、盛んに研究されている。ユマニチュードが重要だと考えていることは、人とのコミュニケーションでは普遍的なものだ。ジネスト氏は、日本の「引きこもり」の若者の援助にも役立てるのでは、と語っている。ユマニチュードは日本でも革命を起こすかもしれない。

5.認知症介護でよくある問題とその対処例

【1】「食事をとってくれない」
継続的な食事拒否は栄養失調や低血糖などに繋がる恐れがあります。

●食べ方がわからなくて混乱
認知症の進行度合いによっては、箸や食器の使い方がわからなくな ってしまいます。

その場合は、介助者も目の前で一緒にゆっくりと食事をとることで、食べ方を思い出し、つられるように食べ始めることがあります。

また品数が多いと、与えられる情報量も多くなり混乱してしまうことがあります。1品ずつ順番に提供するなどして、小出しにするとよいでしょう。

●食べ物を認識できない
認知症が進行すると、視野が狭くなり、正面にあるものしか認識できなくなったり、目の前のものが食べ物なのかを判断できなくなったりします。

そのため、食事の介助をするときには、料理をスプーンにすくって目の前まで運び、「このお肉を食べましょうね」などと示してあげることが効果的です。

●嚥下障害や薬の影響
高齢者の場合、義歯の不具合や飲み込む能力の低下などの問題を抱えていることがあります。

また、服用している薬の影響により、胃腸の調子が悪くなっていたり、味覚が変わっていることもあります。

こういった可能性がある場合は、ご家族などにできることは少ないので担当の医師や看護師へと速やかに相談しましょう。

【2】「どこかへ行こうとする」
認知症による徘徊の理由にはさまざまですが、直接的な制止はしないようにしましょう。

介護をする側にとっては、おかしな行動かもしれませんが、本人は必要に差し迫られての行動です。「それは違う」と否定してしまうと、逆上してしまったり混乱してしまったりします。

まずは共感してあげ、「出掛ける前に上着を着ましょう」「一緒に出掛ける準備をしましょう」などと、別の目的へと誘導してあげるとよいでしょう。

また、漠然とした不安や心配から、このような行動に出ている場合もあります。

落ち着ける環境を整えてあげたり、本人の得意な家事などを任せて自信をつけさせてあげることも有効です。

【3】「過去の習慣をおこなおうとする」
認知症では、古い記憶ほど強く残り、新しい記憶は失われていきます。

そのため、何十年も前に退職した会社へ出社しようとしたり、亡くなってしまった夫の食事を作ろうとしたりします。

もしかしたら本人は、数十年分の記憶を失い、若い頃の自分に戻っているのかもしれません。

そこで本人を否定しても、理解できずに混乱してしまいます。

本人の「現在」はいつの時代になっているのか。ということを考え、本人の話に合わせて「今日は日曜日なので会社は休みですよ」というように、誘導してあげましょう。

「なるほど!ジョブメドレー」より

 

 

 

 

 
 ユマニチュード(人間らしくあること、人間らしさを取り戻すこと)の技術は、生きようとする力を引き出すことのできるケアと思った。

人として尊重され、愛されながらケアされることで、ケアされる側は、潜在的に、期待に応えられるように、回復したい、生きたいという気持ちが生まれるのではないかと感じた。

また、時間をかけて丁寧に関わっていくことで、双方にポジティブな関係が築かれ、心地よい時間を共有することができると思った。

全ての人々に、人として尊重して関わっていく。たとえ反応がなくても、あなたを大切に思っていますというメッセージを伝え続けていく。当たり前のようですが、多重業務など生じたり、時間に気を取られたりすると、疎かになりがち。

 

私は、全ての人々に対して、エマニチュード技術に則って関わっていきたい。